鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)
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鉄よりも、重い夜


火事の犠牲者は、女性がふたり、男性がふたり。それと猫。
飛び降りた位置から察すると、火元のすぐ上に住んでいた男性が飼っていたようだ。


「わたしね、大家さんと相談したんだ。改築したといっても、ああいうことがあったんだから家賃まけて、って」
大輔が心底嫌そうな目をゆかりに向けた。ゆかりが慌てて言う。
「もちろん、ストレートには言わなかったよ。でもさ、二十万の家賃を取るっていう大家のほうがおかしいじゃん。だからさ、ひょっとしたら、と思って聞いてみたの。火事があったらしいけど、配線とか漏電とかは大丈夫ですかって。そしたら、わたしが希望する値段でいいって言ってくれたのよ、あっさりと」
「でも、ここ全面改築したんでしょう」
と未野は室内を見まわした。
「二万円の家賃なんて二十万の家賃と同じくらいありないと思うんだけど」


ありえないねえ、と大輔が首を振る。呆れた表情から察するに、ゆかりの発想に対する感想なのだ。ゆかりがおずおずと答えた。
「それがね、火事の原因がね、大家さんの息子だったの」


ゆかりの推測によれば、高額の家賃は居住希望者を選別するためのフィルターだった。アパート経営は続けたい。
だが、いわく付きの物件を大々的に貸し出すのは気がとがめる。なんといっても惨事を招いたのは自分の息子なのだ。
そこで、見向きもされない家賃を掲げ、それでもやってきた希望者とは相談をする。ゆかりは五年間で初めてのケースなのだ。


「この環境でこの家賃。どう?  住みたくならない?  大家さんも喜んでたし」
とゆかりが言う。あえて軽い口調にしたのは大輔の機嫌を取るためだろう。
「なんか邪道な気がするんだけど」
そう言う大輔の口調は苦々しげなままだが、ゆかりの話にひとまず納得したのか、態度を軟化させつつある。
すかさず、ゆかりが大輔の腕に手を添えすり寄って、甘えた声を出す。
「大丈夫だよお。オバケなんか出ないからさ」
急に取り残された気分に襲われて、未野は顔をそらしてしまった。

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鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)