鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)
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鉄よりも、重い夜


<ブレイク・ザ・ウォール>の会場は、佐賀市内の会館だった。
新築ながらも普段は客足少なくひっそりとした場所が、この日は雑踏に溢れていた。


ホールには野外ライブ用の機材が運びこまれ、ロック・フェスティバルの小型版となっている。
楽屋は会館の三階にある会議室だった。
パーティションで十余りに仕切られた中、出演者がおのおの各々の出番を待つ。


倫ちゃんはスティックで宙を叩いて仕上げに余念がなく、正輝は外へ一服しに出ており、幸也は携帯メールに執心だ。
未野は大がかりなステージに圧倒され、緊張の極みにあった。
せいぜいライブハウス並の規模だと思いこんでいたのだ。


急に楽曲を変更したため、練習が十分でないことも不安要素だった。


コンテストに臨むにあたって未野はバンドの編成を変えていた。幸也をボーカルから外し二番手のギタリストとした。
新たなボーカルは未野自身で<ムスタング>も手放さない。


コンテストで演るのは、未野が初めて作った曲だった。
原型は<パレスハイツ>から病院へ向かう救急車の車内で、隊員からペンを借りて書きとめたものだ。
審査を通過した牧歌的な作風とはまるで異なっていた。
滑空するギターコードと低音域をカバーするドラムスは、しかし、未野がもっともやりたかったスタイルだ。


<カエルの合唱>という名称も改めたかったのだが、こちらは参加規定に反するために断念した。


正輝が帰ってきてすぐ、スタッフに出番が来た、と知らされた。
無言でステージへと向かう中、鼓動はいよいよ早くなる。
ひびの入った肋骨にはまだ痛みが残っていた。


先日会った大輔は、こめかみに絆創膏を貼っていた。抜糸をした傷跡が、いまだに生々しく盛り上がっているということだ。


ステージにたどり着いた一行は、照明が落とされた暗い中で配置についた。
倫ちゃんは黒のロングスカートに暗紅色のタンクトップを合わせてある。正輝と幸也はポリエステルのシャツだ。
未野は髪を短く刈り、まぶたをグレイのアイシャドーで薄く色づけしてあった。
革製パンツが脚を包み、編みあげブーツの底は硬い。
爪は、剥がれた右手中指を除きすべて彩色してある。
その手にピックを持つ。

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鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)