鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)
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鉄よりも、重い夜


電動ポンプの作動音が先細り、機械室に静寂が満ちてくる。
「消火栓ですね」
と田宮がこれといった感情も交えずにつぶやいた。
それを受けて連想するのは、熱。煙。炎、煤。


ぼんやりとした大家の意識が、またたき始めた。
機械音がポンプの作動によるものだと気がついてはいた。だが、その原因には考えが至らなかったのだ。
こぼれる声がわれ知らず甲高いものになる。
「消防に連絡しなくちゃ」
「心配する必要はありません。火事でない確率は高い」
と田宮が大家の手首を握る。冷たい。
「消火栓の型はなんですか。一号?」
「二号です」
と大家は反射的に答えた。


消火栓は消防法によって規格化されている。
二号消火栓は一号に比べて放水量も少なく飛距離も劣るが、半径十五メートルの円内を守備し、女性ひとりでも操作が可能だと説明されて導入を決めたのだ。
陣内さんが使用しているのだろうか。


しばらく黙していた田宮がつぶやいた。
「二号でも斉藤さんはもたないでしょう。猫は言うまでもない」
田宮が大家の肩に手を乗せた。そこを中心に寒気が広がった。
「様子を見てきます。場合によってはそのまま収束するかもしれない」
そこで大家の耳元へ口を寄せた。ささやき声も冷たい。
「わたしが出たあと、ドアは閉めたままにしておいてください。もし、斉藤さんが来ても開けないように」
と最後の言葉が強調される。


田宮は衣ずれを残して去った。大家の胸は波打っていた。


大部分は現状の異常さに根ざしているが、新たな要素も加わっていた。希望だ。


田宮は大家を無監視状態に置くことを不安がっている。手違いが生じて、<変換器[コンバーター]>が停止することを恐れているのだ。


大家の胸に芽吹いた希望とは、まさしくそれだった。
自ら命を断つのだ。

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鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)