鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)
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鉄よりも、重い夜


未野はギターを収めたナイロン素材のソフトケースを肩にかけた。ゆかりの部屋を訪れる前に練習するつもりで、持ち出したのだ。


ギターはバンドをやり始めたときに買ったフェンダー社の<ムスタング>という機種で、中古品だから前の所有者の時代を合わせるとだいぶ年季が入っている。ボディに貼り重ねられたデカルがそれを物語っていた。
「NIRVANA[ニルヴァーナ]」というのが往時のロックバンドなのは未野にもわかるが、ゴシック体の「Iridium[イリジウム]」や梵字については未野の友人も知らなかった。


ネックにヒイラギ、ボディにオークというようにパーツの交換も著しく、もとの製品の何割が残っているかあやしいものだ。 門灯のともる階段に向かって歩く間、<ムスタング>が歩調に合わせて腰にはずんだ。


バンドのコンテストが一ヵ月後に迫っていた。ラジオ局を筆頭に地元企業のいくつかが地域おこしと称して立てた企画で、<ブレイク・ザ・ウォール>と名称がついていた。


幸也が率いる<カエルの合唱>もデモCDを送った結果、審査を通過した。出演団体総勢二十組の中で勝ち残れば二百万の賞金が出る。コンテストはマスコミで告知され、当日は実況されて電波に乗る。


気が向いたときに細々とライブをやっていた<カエルの合唱>にとっては、大きな舞台だった。
だがその好機も、目下急速に遠ざかりつつある。


未野と幸也の関係が破局してから数時間がたっていた。


幸也の新しい相手を見たことはないのに、その面影が脳裏に鮮やかだ。短く切った黒髪、グレイの陰影をつけた目じり、彩度をひかえた口元、大柄な銀製指輪をはめた指と、上手に彩色したネイル。


そんな女[ひと]にかなうわけがない。


激情にかられて泣いたあとは、妙に冷静になった。幸也に捨てられた理由を突き詰めれば、彼女に比して見劣りがするというどうにもならない事実に集約される。


幸也の部屋に置いてあった持ち物は、スーパーのビニール袋にあっけなく収まった。衣類はなかった。先日、
「部屋の模様替えをするから」
と幸也に言われて持ち帰っていたのだ。

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鉄よりも、重い夜
沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14)