鉄よりも、重い夜 沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14) |
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鉄よりも、重い夜
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ゆかりが<パレスハイツ>に入居して一週間がたったころ、ごく親しい友人同士で集まって引越し祝いをすることになった。
新垣未野[みや]は約束の時間に二時間近く遅れて、<パレスハイツ>に原付を乗り入れた。蒸し暑い夜で、盆入り前の満月が絹雲にぼ暈けていた。
建物前面の駐車場は閑散としすぎていた。アスファルトをならした駐車場にはただ一台、ゆかりのバイクだけが街灯に映えて展示場の見本然としている。 ゆかりの部屋を除いて、すべて空室だというのは本当のようだ。
<パレスハイツ>は廊下を丸ごと外壁で囲った箱型になっていた。内廊下と呼ばれる様式で、建物の中にもうひとつ建物があるような印象を与えた。
各階には横長の大きな矩形がみっつ窓のように開いていて、オレンジの明かりの中、玄関ドアが並ぶ。外壁はざらりとした無彩色煉瓦仕上げ。 いくつか角を飛び出せているのは単調さを崩すためだろう。取りつけられた雨水パイプがエクステリアの用をなしている。
ヨーロッパの石造りホテルふうで洒脱ではあるけれども、少々場違いなように未野には思えた。周辺環境は人里離れたというほどでなくても民家のまばらな一帯で、田畑になり損ねた感の漂う遊閑地すらあった。
聞けば、家賃が二十万円もするという。 そんな金額を提示する大家の感覚も常識から遠いところにあるが、たったひとりで無人のアパートに居を定めるゆかりもだいぶおかしい。
上下左右の部屋がことごとく無人でご近所とも離れているのなら、飲んで騒いでコンポの重低音を最大に利かせるばかりか、彼氏こみの夜ふけに派手な声をあげようとも迷惑になりえないと踏んだのだろうか。そうした環境が欲しいと常々言ってはいたけれど、それにしても極端だ。
ここへ至る夜道で、未野は何度心細い思いをしたかわからない。
ゆかりには遅れると連絡を入れてあった。今ごろ、大輔とふたりでビール缶をせっせと空けているだろう。ワインの栓も抜いたかもしれない。普段はデイリーワインで間に合わせるが今夜は高級品を用意したということだ。
未野も幸也を伴うことになっていた。 だが予定は狂いまくって、やって来たのは未野ひとり。
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鉄よりも、重い夜 沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14) |