鉄よりも、重い夜 沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14) |
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鉄よりも、重い夜
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「バンドをどうするか、幸也が決めることだから」 語尾はため息となって消えた。 あのバカ、とゆかりは再度幸也を罵倒して、今度はテーブルを叩く音も添えた。
審査に出したデモ音源と実演予定でいた楽曲は同一で、ゆかりが長い時間頭をひねって完成させた詩に幸也がギターコードを振ったものだ。ゆかりの怒りが自分に向けられているわけではないと承知してはいるものの、未野の心に焼きつけられている回路は理性を裏切り、責められているような苦痛を呼び起こす。 幸也がほかの女性と寝た形跡を発見したときは怒りを吐き出すのが精一杯で、バンドのことなどまるで念頭になかったのだ。
「幸也だって、今さら辞めるわけにいかないと思うよ」 と未野は小声で言った。 だが、往々にして幸也は、状況に逆らわず流れに乗る選択をする。コンテストなどあっさり辞退するかもしれなかった。いや、するに違いない。
ゆかりが未野の目をのぞきこんだ。怒りはやわらいで、気づかう表情がそこにある。 「未野の気持ちはどうなるの。あんなに一生懸命練習してたじゃん。幸也にもよくしてあげてたじゃん」 未野は慌ててティッシュを目に当てた。新たな涙が染みた。吸いこむ息がわななくが、それでも無理やり言葉を押し出す。 自分に言い聞かせるように言う。 「いいの。こんなこと、普通に、よくあることだし」 だが閉じた目は、見たこともない幸也の新しい女に何度目かの焦点を結ぶ。幸也と同型のライダースジャケット、足の曲線を見せすぎず隠しすぎもしない仕立ての黒い革製パンツ、その先のブーツ。 同性にも好印象を残すまなざし、口元には優越感と憐憫。 未野の頭上の氷はますます分厚く、以前より多くのものが手に届かない場所へ遠ざかる。
ゆかりがグラスにワインを注いでくれ、手を添えてくれる。 「未野は悪くないんだからね」 大輔がふらつきながら立ちあがった。 「おれ、酒買ってくる」
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鉄よりも、重い夜 沖縄タイムス連載小説(08.11.4-09.1.14) |