晴れた夜に濡れていたリシィ
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晴れた夜に濡れていたリシィ


空に満月を頂く盛夏の沖縄にふさわしい熱帯夜だった。街の薄暗い路地裏で女がうなだれていた。自動販売機のそばに座りこみ、立てた両膝に顔をつっぷしていた。


白いTシャツと黒いジーンズの身なりは、まるで暗がりにできるモノトーンの影そのものだ。


自動販売機に近づくまで彼女に気がつかなかった。視野の隅に違和を感じた瞬間にごみ箱かなにかだと思いこんだまま目を向けたから、彼女の存在に驚いた心臓がなかなか静まってくれない。


路地にある八百屋や不動産の事務所は、どれもシャッターを下ろしている。物陰で寝そべる猫だってなにかのはずみに不気味なものに見えることもある界隈なのだ。


彼女のかたわらには場違いなものがあった。三線[さんしん]だ。ニシキヘビの皮を張った弦楽器は巷にあふれる沖縄印のひとつだが、そんなものを抱えて歩く地元の人間などそうはいない。


県外からの移住者なんだろう。


路地と近接するメインストリートのどこかの居酒屋で、民謡の歌い手として働いているのかもしれない。
移住してきた若者が居酒屋やキャバクラで金を稼ぐのは、よくあるスタイルなのだ。


メインストリートは路地の北端と直行する。観光客を意識した土産物の店や郷土料理の店や居酒屋が建ち並ぶにぎやかな通りだが、その喧騒が届くのも路地の入り口から十数メートル入ったところまでだ。


路地を奥へと進めば、こぢんまりとした酒場がつらなる一角に行き着く。


本日のおれの目的地だった。


二年間つき合っていた美香子にふられてから二時間ほどがたつ。一ヶ月ほど前からギクシャクしていた関係に、彼女がケリをつけたのだ。
古びたアパートの部屋でひとりぽつんと、らせん状に沈みこむ気分を放っておいてはなにやら危険だと、憂さを晴らすために飲みに行く途中だった。


路地の反対側には小さな公園があって、そこからぼそぼそとした話し声が聞こえていた。


公園の基部は数段ばかりの階段で路面より高く、一本だけある街灯はともっていないが、月明かりでテント代わりに張ったブルーシートが見てとれた。四、五人の中年の男が住みついているのだ。


だが、聞こえてくる声はまだ若いように思えた。


路地をタクシーが通りすぎていき、ヘッドライトが周辺を照らした。
公園の物陰に数人の少年たちがいた。ひとりが電話をかけていて、下品な笑い声を立てた。
別のひとりと目が合った気がした。


彼らも自動販売機のとなりの彼女に関心があるようだった。


「こんなところにいちゃ、やばいっすよ」
とおれは女に声をかけた。


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