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地域人INTERVIEW 42号
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岸本が突然の休職願を出し、急きょわたし西村久美がてふてふP氏のインタビューをすることになった。 これまでてふてふP氏のルーツや執筆時の状況、嗜好などについてインタビューを行ってきたが、執筆の原動力についてはいまだ謎のままだ。われわれのインタビュアーとしての技量の甘さもあり、いつも彼にはぐらかされている印象だ。 何が彼をして書かせるのか? 今回Vol.42と次回Vol.43の2回にわたって、てふてふP氏の執筆の原動力を探る。
今回は新任した編集長の意向もあり、某ホテルのラウンジで会見を行った。経費の上限もなく、必要とあらば一泊してでも話を聞きだす覚悟で臨んだ。
ただし、このことはてふてふP氏に伝えなかった。一泊しようと話を引き伸ばされては困るからだ。
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文責:西村久美 |
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西村 よろしくお願いします。
てふP 京子さん、大丈夫ですか?
西村 わたしも詳しい事情を知りません。詳細がわかったら必ずご連絡します。 さっそくですが、インタビューに入ります。てふてふP氏が作品を書く原動力を教えてください。
てふP 久美さんが担当になると、なんだか話題が重くなりますねえ。お腹壊しそ……。
西村 岸本京子の方がいいですか?
てふP わー、そんなこと全然言ってません、今の冗談ですよ。 いつもと違う雰囲気で刺激的であります(^^ゞ 久美さんも大好き、これ本当ね b( ^_-)-☆
ええと、書く原動力ですか? ヒマだからとか、そこにパソコンがあるからとか、そういう答えじゃだめなんですよね(笑)。
でもこれ相当難しい質問ですよ、たぶん心理学者に分析してもらわないとわかんないかもしれない。
話変わりますけど、オレ、ものの香りって興味あるんすよ。久美さん、香水変えたでしょう? コロンに変わった? やっぱり! 香りいいすね、そのコロン。オレそういう匂いに弱いんだ。寝るときかいだら快眠潜行間違いなし。
いえ! 今のはもののたとえで、そんな 「添い寝させください」 とか言ってるんじゃないであります! びっくりだなぁもう、勘弁してくださいよ。オレのいうこといちいち間に受けないでください、オレがもたない。
香水をかぐと良く眠れるっていうのは本当ですよ。わざわざ香水つけて寝ることあるくらい。
場合によってはニベアのハンドクリームでもいいです。 別に嗅覚鋭いとかそんなんじゃなくて、むしろ普通の人より悪いくらい。鼻炎だから(笑)。
オレん中で匂いってけっこう重要なんすよ。つき合った彼女の匂いとか執拗[しつよう]にかぎますよ、クンクンって(笑)。頭皮の匂いとかね。 がっしと彼女の頭部つかんで、鼻先で頭髪かき分けてクンクンバキューム、Oh! ニルヴァ〜ナ。
できれば2日くらいお風呂入ってないほうがいいね、最高、よだれたれそう。
いえ、変態じゃなすから、オレ。男なら全員もれなく実施してますから。 もっとすごいやつとかいますから、これくらいで変態呼ばわりしないでください。
大むかしDさんって女性とつき合っていたときに、オレがあと1時間で仕事終わるからってメール送ったら、こんなメールが来て笑ったことありますよ。
「今日もクンクンするの?」
犬か(笑)。 ペンネーム、クンクンでもよかった。クンクンP(笑)。 なんか……すごく寂しいんです、久美さん。笑ってるのオレだけですもん……。 久美さん笑わない主義ですか? タモリの笑っていいともダメな人? 笑うと健康にいいそうですよ。え、オレのでは笑えない? はい、ごもっともです……。
じゃ話戻しますね。 たとえば、そうねえ、昼と夜とで空気の匂い違うのわかります? どう違うかって説明難しいんだけど、たとえばね、夜の田舎道の匂い。
オレのマンションは街の中心地から外れているとはいっても、全然田舎じゃないからそういう匂い少ないけど、それでもしますよ。午前5時ごろの公園とか。 静かだしね、犬の散歩させてるおじいちゃんがいたり。情緒たっぷりというか。
そういうときの空気の匂いをかぐと、オレ、トランスしちゃうのね。意識の3分の1くらいが勝手にどっか行っちゃう。宇宙かもしんない。地球は青いかった、みたいな(笑)。 …………………………b( ^_-)-☆
久美さんのコロンの匂いでも状況変わればトランスしますよ、おっと、前もって言っておきますけど性的どうのこうのまったく関係ないすからね。 特定の匂いかぐとオレの頭の中でイメージがわーーーーって浮かぶんです。 いろんな思い出が、お風呂場のドア開けたときの湯気みたいにモワッと。
ひとつひとつの思い出なんて出てきません、ただ漠然としたイメージだけ。イメージってほら、雰囲気とセットじゃないですか。
平たく言うなら切ない雰囲気、甘酸っぱい雰囲気とか孤独、悲哀いろいろね。ひとりバーの片隅でグラスを傾けている革ジャンの女のイメージは哀愁ね、あるいは犯罪。
「オレは女の左側に、ひとつ席を空けて腰かけた。彼女はこちらを見なかった。眉の上にあざが消えかけていた。おそらく拳のあとだ」
……ってな感じで、雰囲気にオレの心がおかされていって、いつもこねくり回しているまだ形になっていない作品のアイディアが反応したときにストーリーが見えてくる。 前に話した、変態野郎Aの時といっしょです。Aと話しているとなぜかエロいストーリーを思いつく。
「お股よりこんにちは! おまんタコ!」
わは……というように、脳みそがそういう雰囲気になるわけであります(^^ゞ
ちなみにオレのマンション25階のテラスから見た日曜の朝の空気、フランスでかいだ駅の香りといっしょなんです。 初夏のフランスの駅前にはクロワッサンとコカ・コーラ売ってる栗色の髪のお姉ちゃんがいて。オレそのときフランスについたばかりでびびってて、クロワッサン買うのも勇気いったんだけど、栗色の人にっこり笑ってくれて、おお、フランス娘みんなやさしい! って普通のことにも感動しやすくなってる。びびりすぎで頭おかしくなってるっていうか。
日曜日の匂いをかぐと……えーと、日曜日の匂いってどういえばいいかなぁ。とにかくね、日曜日の朝、午前もまだ早い時間に25階のテラスに出ると、そういう記憶がばくぜーんとよみがえってきて、オレの心占領して、 「あの時あんなことがあったな……」 そして歯車が回り始める。
心の半分が日常から浮遊して非日常地帯に突入するというか。大半が作品として結実しないんだけどね、タバコの煙といっしょで一瞬心がリフレッシュしただけで終わっちゃう。 結実してたらもっと評判いいよね、オレ(笑)。
基本的にオレ雰囲気に弱い人なんですよ。うまく自分を「その雰囲気」に落としこめると、パソコンのキー打つ指も早くなる。 時間も消えて何時間たったかわからなくなる。 トランスの状態、きっと。 答え、こんな感じでいい?
西村 完全に的外れです。原動力の説明として不十分です。納得できません。 品を欠く発言は質問の意図をかく乱するためですね?
てふP おおげさだなぁ b( ^_-)-☆ たとえば久美さんがそんなに冷たく言わない人なら、ひょっとすると香水の匂いかいで何かひとつ書けるかもよ。 恋愛の短編とか。お風呂上りの匂いでもいいし。 えっちな意味ではまったくなく!
でも、なぜか焼肉とか排気ガスとか線香とかそういうのでは雰囲気出ないんだなぁ、不思議。 だいたい決まってます、触発される匂いは深夜の空気か、女性の香水か、お風呂上りの女性か。
くどいですけど、まったく変な意味ないすからね、記事書くとき注意してくださいよ。頼みますから。
西村 いいかげん匂いの話は忘れてください。むかしの子どものころの体験が大元になっているとか、そういうことではないんですか? 原体験というか原風景というか。 『戦い、闘う、蝿』では特にその線が濃厚です。
てふP あれはでっちあげ、超大嘘。 オレの体験なんか0%しか入ってませんから。 一般的な子どもでしたから、そんなのないです……強いて言うなら子どものころ港の近くに家があったから、接岸している船に忍び込んで船員室からエロ本パクってきたくらい。 牧歌的すぎるでしょう?
久美さんの前で自分の体験なんて語れないすよ、スケール小さすぎて。 原体験なくったって書けますって。雰囲気しだいなんだから。
……どうせ納得できないと思うけど、じゃあ、ちょっと聞いてみます? 今日、時間いいんですか? もう3時間過ぎましたよ。トイレ行きたいし。
西村 ここで一度休憩はさみましょう。続きも今日で録音させていただいて、次号の記事と連続性を保ちます。
てふP そんなことよりお腹が空きました。どこからか焼肉の匂いがする。
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出典:『リアル・ブレイン』 (2005/2/10 超現実出版社) |
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編集後記/tefutefuP |
このインタビューが掲載されてすぐ、『RONIN』を発行していた超現実出版社の事務所が火事に見舞われ、けが人はひとりもでなかったものの、事務所は全焼、隣室をも焼く惨事となった。 その後、出版社が再興されることもなく、『RONIN』もそのまま廃刊、わたしのインタビューも尻切れトンボになってしまった。
雑誌が現存しているかどうか、わたしも西村さんも知らない。発行部数がそもそも少なかった上、顧客管理がまったくされておらず、どういう人々が購入したのか見当もつかないのだ。 大切に保管してくれている方がいるかもしれない一方、すべて可燃物扱いとなったというのも非現実的な話ではない。
岸本京子さんとはまったく連絡が取れなくなった。 休職願も電話で伝えただけで、実質、失踪と言っていい状態らしい。
彼女が休職する1ヶ月ほど前、そのときはまだ辞職していかなった編集長の岡部さんと物を投げあう大喧嘩を演じたというから、あるいはそれが遠因なのかもしれない。
わたしを含め人間関係が複雑に交錯しているから書けないが、火事と岡部さんの辞職と休職願を出して消えた京子さんの関係を、西村さんと無責任に推測し、ある結論に落ち着いたがそれもここには記さない。
しょせん、われわれが語っているのは各人の思いが溶け込んだひとつのフィクション、ファンタジーに過ぎない。 強い思い入れは、しばしばもっとも身近な現実ですら現実性を喪失させてしまう。
超現実出版社の元編集者西村久美さんとは今でもときどき街で落ち合って酒を飲む。 相変わらずのポーカーフェイスとグレーのスーツで、言葉の切れ味はますます鋭く、話は味わい深い。 彼女の話を元に脱稿したときには、わたしが一杯ふるまうのが習慣となっている。
彼女と飲む店はMIDOLI屋ではない。MIDOLI屋には気分が湿っぽくなったときにわたしひとりだけで行くことにしている。
カウンターに座り、座敷客の歓声を聞きいているうちに京子さんの顔と香りが浮かんできて、気分はますます湿っぽくなっていく。
そのせいかどうか、店を出るとき外はいつも霧雨だ。
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